異世界最悪の大罪人(1話~3話)
【本作の特徴】
主人公が頭脳を使って困難を切り抜けていくタイプの物語です
バトルシーンをなくし、作画負担の少ないシナリオとなるように意識して作っています
1話~7話まで掲載しており、ネタバレになるので言えませんが、大きな仕掛けをセットしています(その仕掛けは7話より先で作動します)
毎話ごとに仕掛けがあるように、次話が気になる展開となるように意識して作りました
物語の裏側まで緻密な計算をしながら作ったシナリオです
【簡易宣伝】
異世界で地球人の男と宇宙人の女がタッグを組む。
地球での善悪についての考えをもち続ければ心を病んでしまう。
なぜなら、異世界を守ろうとする者たちを滅ぼす必要があるからだ。
目的を果たす鍵となる秘宝を奪うには、他者を欺き、利用し、裏切ることを迫られる。
全ての生物を救うために異世界を滅ぼす旅が始まる!
【作品の説明】
一人の男が異世界に転生する。
目の前には一人の美少女の姿が。
その女性こそ、男を転生させた宇宙人であった。
「アルファ」と名乗った女は、前世の自分に関する記憶を失っている男に「ベータ」という名前を与える。
ベータは、アルファから異世界の仕組みについて説明される。
異世界で産まれた全ての生物は死んだあと地獄に行くようになっており、その世界の仕組みを変えて、全ての生物を天国に行けるようにする方法が1つだけあるという。
その方法は、異世界を破滅させること。そのためには各地にある秘宝を集める必要があり、転生の際に発現したベータの最強の能力が必要だとアルファは言う。
世界の仕組みを知っている者がほとんどいなく、秘宝を奪うことは捕まれば死罪に値する悪とされる行為であると知るベータ。
地球での善悪の基準を忘れなければ、これから先の旅で心を病むとベータは忠告される。
異世界において最悪の大罪人として人々から怒りを買うことになり、良心を捨てなければ葛藤と苦悩が伴うことはわかりきっている旅。
そして、全ての生物を救うために異世界を滅ぼす旅が始まる。
秘宝を集めるためには手段を選ばないアルファと、世界を滅ぼすまで誰も殺さないという考えを貫こうとするベータ。
二人の旅は激しいものになっていく。
【登場人物】
ベータ(主人公・男)
地球から異世界に転生させられた人間。
前世の自分に関しての記憶を失っており、美青年の姿で転生した。
相手の姿を見て念じれば、相手が念じたとおりになる特殊能力をもつ。
ただし、能力発動まで5分間のタイムラグがある。
アルファ(ヒロイン・女)
宇宙から異世界に来た宇宙人。
十代後半くらいの美少女の姿をした女性。
相手の姿を見れば、相手の心の声がわかる特殊能力をもつ。
脚本形式の作品です。
(M)モノローグ
(N)ナレーション
Wordでの文字数
各話 5000字以内
【第1話 嘘】
〇森の中(朝)
一人で地面に手をかざす美少女の姿。
アルファが手をかざしている地面は光っている。
アルファ「転生開始・・・個人に関する記憶は消滅させて」
美青年の姿をした男が光り輝きながらアルファの前に出現する。
男「・・・?」
アルファ「ようこそ、異世界へ」
男「異世界?」
アルファ「私があなたを地球から転生させたの。自分について何か思い出せる?」
男、思い出そうと額に手を当てる。
男「・・・何も思い出せない」
アルファ「残念だけど、転生技術の誤作動で個人に関する記憶は消えたみたいね」
男「なんでオレを転生させた?」
アルファ「異世界を滅ぼす手伝いをしてもらいたいから。全ての生物を救うために」
男「どういうことだ?」
アルファ「この世界に住む生物は死んだら地獄に行く仕組みになってるの。だけど、世界を滅ぼせば、その仕組みが変わって、全ての生物は天国に行けるようになるわ」
男「・・・天国と地獄」
アルファ「私のことは『アルファ』って呼んで。あなたのことは『ベータ』って呼ぶから」
男「ベータ?」
歩き始めるアルファ。混乱した表情を浮かべてついていくベータ。
アルファ「世界を滅ぼすためには、あなたの特殊能力が必要なの。転生の際に発現したはず」
前方に斧で薪を割っている一人の中年男性の姿。
アルファ「ちょうどいいわ、あの男を実験台に能力を試してみて。あなたの能力は、相手の姿を見て念じれば、相手が念じた通りになる力よ」
ベータ「・・・相手を思い通りにできる能力ってことか?」
アルファ「そう。最強でしょ? あなたは私が求めた最強の仲間」
ベータ「(困惑した表情で)」
草陰に隠れるアルファとベータ。
アルファ「たとえば、あの男に『死ね!』って念じてみて。5分後に死ぬから」
ベータ「なんで殺すんだよ? 『眠れ』とかでいいだろ?」
アルファ「なんでもいいわ。とにかく強く何か念じてみて」
前方の中年男性を見るベータ。
ベータ「眠れ!」
アルファ「声に出さなくてもいいわよ。5分後にあの男が念じた通りに眠るわ」
と、懐中時計を取り出して確認する。
ベータ「なんで5分後?」
アルファ「あなたの能力は発動するまで5分間のタイムラグがあるの」
ベータ「誰でも思い通りにできるのか?」
アルファ「私には効かない。あなたを転生させた私は主にあたるから」
ベータ「アルファの能力は転生させる力?」
アルファ「違うわ、転生は科学技術の力。私の能力は、相手を見れば心を読むことができる。ただし、あなたの心だけは読むことができない。転生者だからね」
ベータ「じゃあ、あの男が何を考えてるか読めるのか?」
薪を割る男性の姿をじっと見つめるアルファ。
アルファ「今のところ無心で薪を割ってるわね。もう少し待って」
しばらく男性を見つめるアルファ。
アルファ「・・・あー、ウンコしたくなってきた」
ベータ「え・・・トイレに行けば?」
アルファ「私じゃないわよ! あの男がそう思ったの!」
ベータ「ああ、なんだ」
中年男性、薪割りをやめて藪の中に入っていく。
アルファ「野グソしに行く気ね」
懐中時計で時間を確認するアルファ。
アルファ「追うわよ。もうすぐ5分だから、あなたの能力が発動するわ」
ベータ「でも、他人の排泄行為を覗くのは、人としてちょっと・・・」
アルファ「地球の一般的なモラルは覚えてるみたいだけど、そんなものは捨てて。でないと、これからの旅で絶対に心を病むわ。これは忠告よ」
ベータ「・・・なんだよ、それ」
〇藪の中(朝)
草木に隠れているアルファとベータ。
大便している中年男性。
アルファ「5分になる」
地面に倒れる男性。
ベータ「!」
アルファとベータ、男性に近寄る。いびきをかいて眠っている男性。
アルファ「大便してる最中に眠る人なんて初めて見たわ」
と、鼻をつまんでいる。
ベータ「起きてください」
と、男性の体を強く揺する。
男性、目を覚ます。
中年男性「ああ!」
と、驚いてズボンを腰まであげる。
アルファ「実験終了。行くわよ、ベータ」
アルファとベータ、立ち去っていく。
何が起きたかわからないという表情の男性。
〇森の中(朝)
アルファについていくベータ。
ベータ「地球でのオレって、どんな人間だった?」
アルファ「さあ? 私も知らない。転生者はランダムで選ばれるから」
ベータ「・・・これからどうするんだ?」
アルファ「世界を滅ぼすために必要な秘宝を全て集める。タイムリミットは1年。まず秘宝のありかを知るために仙人のいる洞窟へ行く。仙人は全てを見通すことができて、たいていの質問には答えられるっていう噂だから」
ベータ「・・・異世界を滅ぼしたら、この星の住人たちは死ぬことになるのか?」
アルファ「そうよ、死んで天国に行く」
ベータ「何か別の方法は・・・」
アルファ「ないわ。研究の結果、その方法しかなかった」
ベータ「・・・じゃあ、今みんな必死で秘宝を集めようとしてるのか?」
アルファ「この世界の仕組みについては転生技術を使える私だけ偶然知ることができたことなの。あとは真理を見通せる仙人くらいしか知らないと思うわ」
ベータ「だったら、異世界の人たちから見たら、オレたちは世界の破滅を目論む頭がおかしい悪人になるのか?」
アルファ「ええ。実行してる途中で捕まれば間違いなく死罪ね」
ベータ「・・・地球から別の人を転生させて、オレじゃなくてその人に頼んでほしいんだけど」
アルファ「もう転生技術は二度と使えないわ。あなたに使ったのが最後だったの」
ベータ「・・・でも死罪って、殺されるんだろ?」
アルファ「安心して。私たちは殺されても天国に行ける。この世界で産まれてない私たちは異世界の仕組みが適用されないからね」
ベータ「・・・そうなんだ。アルファも転生者?」
アルファ「違うわ。私は宇宙からこの星に来たの。この世界の者から見れば、宇宙人よ」
ベータ「宇宙人・・・」
〇洞窟の入り口(朝)
並んで立つアルファとベータ。
アルファ「ベータ、能力を使って仙人に秘宝のありかをしゃべらせて」
ベータ(M)「もしアルファが説明した天国や地獄の話が嘘だったとしたら、オレは異世界最悪の大罪人になるってことだ」
考える表情のベータ。
ベータ(M)「協力する前に、アルファの話が本当なのか確かめる必要がある。何かいい方法はないか?」
ベータ、はっとした表情に変わる。
ベータ(M)「・・・オレの能力を使えば、確かめることができるかもしれない!」
〇洞窟(朝)
暗い洞窟を歩いているアルファとベータ。
前方に老人が一人で座っているのが見える。
仙人「待ってたぞ。アルファとベータ」
アルファ「・・・全部お見通しってわけね。噂は本当みたい」
仙人「秘宝のありかを教えよう」
アルファ「失礼ですが、話が本当なのか確かめるために能力を使わせてもらいます」
仙人「好きにするがいい」
アルファ、ベータにウインクする。
仙人を見つめるベータ。
ベータ(M)「オレが質問したら本当のことを教えろ!」
アルファ「なんて念じた?」
ベータ「・・・秘宝がある本当の場所を教えろって」
懐中時計を確認するアルファ。
秘宝のある場所を紙に書き始める仙人。
仙人の姿を見ているアルファとベータ。
アルファ、仙人から紙を受け取る。
懐中時計を確認するアルファ。
アルファ「5分経過」
仙人に紙を見せるアルファ。
アルファ「この場所に秘宝は本当にあるの? 全ての秘宝の場所を書いてくれた?」
仙人「間違いない、その場所にある。秘宝がある場所は全て書いた」
アルファ「そう。行くわよ、ベータ。もうここに用はない」
洞窟の出口に向かって歩くアルファとベータ。
アルファ「一番近い秘宝の場所は、この洞窟から5分くらいで着く村よ」
〇村の出入口(朝)
岩でつくられた門の前に立つアルファとベータ。
アルファ「この村ね」
岩で簡単につくられた住居が見える。
ベータ「なんか大昔にタイムスリップしたみたいだ」
アルファ「場所によって文明レベルは様々よ」
村に入っていくアルファとベータ。
〇村(朝)
村の中を歩くアルファとベータ。
魔獣が二足歩行で歩いている。
ベータ「あの生物は?」
アルファ「魔獣よ。この世界は人と魔獣が共存してるの。世界共通語で魔獣も話せるわ」
ベータ「そうなんだ」
魔獣と楽しそうに会話している村人。
村人「今度、旅行に行きませんか?」
魔獣「いいですね。どこに行きます?」
周囲を見回すベータ。
アルファ「(小声で)まず秘宝に関する情報を集めていくわよ」
ベータ「・・・アルファ、ちょっと腹が痛いからトイレ探してくる」
アルファ「わかった、私は先に情報収集を始めてるから」
二手に分かれるアルファとベータ。
ベータ(M)「今がチャンスだ」
と、村の出入口の方へ歩いていく。
〇森の中(朝)
洞窟に向かって走っているベータ。
ベータ(M)「仮にアルファと仙人が事前に打ち合わせして話を合わせてたとしても、オレの能力の前では無意味だ」
〇洞窟(朝)
仙人の前に立つベータ。
ベータ(M)「さっき『オレが質問したら本当のことを教えろ』と念じたから、本当のことを聞き出せる」
仙人、ベータを見つめる。
ベータ「秘宝のある全ての場所を本当に教えてくれたんですか?」
仙人「ああ、教えた」
ベータ「世界を滅ぼせば、全ての生物が死んだあとに行く場所が地獄から天国に変わるという話は本当ですか?」
仙人「本当だ。これまで地獄に行った者も天国に行けるようになる」
ベータ「じゃあ、アルファがオレに話したことは全て本当のことなんですか?」
仙人「いいや、彼女は君に2つ嘘をついている」
ベータ「!」
仙人、器に入った水を飲む。
ベータ「・・・その嘘は何ですか?」
仙人「君の記憶は転生技術の誤作動によって消えたのではなく、彼女が意図的に君の記憶を消滅させるように設定して転生させた。つまり、わざと君の記憶を消したのだよ」
ベータ「・・・アルファは何のためにオレの記憶を消したんですか?」
仙人「前世の自分に関する記憶があれば、元の自分の過去を引きずって、自殺を図る者もいる。君が自殺でもしたら困るから記憶を消したのだ」
ベータ「・・・もう一つの嘘は?」
仙人「君と彼女は死んでも天国には行けない。この世界で産まれていない者は、死ねば無になる。世界を滅ぼしても滅ぼさなくても、それは変わらない」
ベータ「なんで天国に行けるなんて嘘を?」
仙人「君に協力を断られでもしたら、世界を滅ぼすことが不可能になるからだよ」
ベータ「・・・」
仙人「彼女は必死だ。全ての者を救うためなら手段を選ばない」
〇村(朝)
魔獣や村人と話しているアルファ。
〇洞窟(朝)
仙人と話しているベータ。
ベータ「仙人が世界の仕組みについての話を世間に広めればいいんじゃないですか?」
仙人「ワシはここから離れることができん。それにワシらが言っても誰も信じないだろう。誰にも証明できないからな」
ベータ「・・・前世のオレはどんな人間だったんですか?」
仙人「それは誰にもわからん。記憶が消滅してしまっては知る術がない。君は永遠に前世の自分について知ることはできない」
ベータ「そうですか・・・」
仙人「彼女の言う通り、世界を滅ぼす道を選ぶなら、地球での善悪の基準などは忘れなさい。でないと、君の心は壊れてしまうだろう」
ベータ「・・・ご忠告ありがとうございます」
沈んだ表情で立ち去っていくベータ。
ベータ(N)「なんでオレがこんな目に遭わなければいけないのか。その思いだけがオレの心の中で大きく芽生えていた」
〇村の出入口(昼)
門の前に立っているベータ。
ベータ「(溜息をついて)・・・」
と、村へ入っていく。
〇村(昼)
歩いているベータの姿を見つけて駆け寄るアルファ。
アルファ「ベータ、トイレ長すぎ。どれだけ気張ってたの?」
岩を重ねてつくられた一際大きな建物を指差すアルファ。
アルファ「(小声で)秘宝はあそこにある。警備は衛兵が10人」
秘宝のある建物の表口に、髪が隠れるヘルメットをかぶった衛兵が2人立っている。
アルファ「出入口は表口と裏口があるけど、ベータの力を使うなら表口から行くのがベスト」
ベータ、アルファの顔を見ていない。
アルファ「もし侵入して衛兵に見つかっても抵抗はしないで。無抵抗ならその場で殺されることはないから。拘束されている間に念じればいい。衛兵は必ず殺して」
ベータ「・・・」
アルファ「よーし、正面突破で行くわよ」
と、秘宝のある建物に向かって歩きだす。
ベータ「嫌だ」
アルファ「は?」
と驚いた顔で振り返る。
見つめ合うアルファとベータ。
(続く)
【第2話 幕開け】
〇村(昼)
向き合うアルファとベータ。
アルファ「・・・なにが嫌なの?」
ベータ「捕まったら死罪なんだろ?」
アルファ「でも、私たちは死ねば天国に行ける」
ベータ「それ嘘だろ」
アルファ「・・・嘘じゃないわ」
ベータ「仙人に本当の話を聞いてきた」
アルファ「!」
ベータ「オレたちは死んだら無になるんだな」
驚いた顔を浮かべるアルファ。
アルファ「トイレじゃなくて洞窟に行ってたの!?」
ベータ、アルファを問い詰めるような目で見ている。
アルファ「・・・仙人が嘘をついてるのよ」
ベータ、首を左右に振る。
ベータ「オレの能力を使って確かめたから嘘じゃない」
アルファ「っ・・・」
ベータ「それに、わざとオレの記憶を消したらしいな」
アルファ「(顔を歪めて)・・・あのジジイ」
ベータ「オレの能力を使って無理矢理に話させたんだ。仙人は悪くない」
アルファ「・・・」
ベータ「そんな大事なことを嘘つくなんて・・・」
ベータ、不信感を募らせたような表情でアルファを見ている。
アルファ「・・・しょうがなかったのよ! 絶対に協力してもらわなきゃいけなかったし!」
ベータ「もし捕まって、人から罵られながら殺されるなんてごめんだ」
アルファ「この世界の人たちが地獄に落ちるのを見過ごすの!?」
ベータ「・・・勝手に君に転生させられたんだ。オレには関係ない」
アルファ「あなたの力が必要なの! あなたには世界中の生物を救う力があるの!」
ベータ「戦いとかになって痛い思いをするのは嫌だ」
アルファ「あなたの能力は無敵よ。痛い思いなんてしないわ」
ベータ「無敵じゃない! 念じても5分経つ前に殺されたらアウトだろ!?」
アルファを睨んでいるベータ。
ベータ「とにかくオレはやらない!」
涙目になって体を震わせるアルファ。
アルファ「・・・なんで、あんたみたいな奴が転生しちゃったのよ」
ベータ「そんなのオレが聞きたい」
アルファ「もういい! 無理でも私一人でやるから! 好きなように生きれば!? バカ!」
秘宝のある建物に向かって走っていくアルファ。
ベータ、アルファの後ろ姿を見つめる。
〇秘宝のある建物の裏庭(昼)
裏口の前に衛兵が一人立っている。裏庭に接した道を歩いている老女の姿。
建物の角に隠れているアルファ、老女に向かって石を投げる。
老女の頭に石が当たる。
老女「(痛くて)ぎゃあっ!」
地面に倒れる老女。
衛兵A「大丈夫ですか!?」
と、裏口から離れて老女に駆け寄っていく。
その隙に裏口から秘宝のある建物内に入るアルファ。
〇秘宝のある建物内(昼)
早足で奥へと進んでいくアルファ。
前方の角から2名の衛兵が現れる。
アルファ「!」
衛兵B「貴様! 何者だ!?」
と、武器を構える。
アルファ、立ち止まって両手をあげる。
アルファ「村長の愛人よ。私を傷つければ、あなたたちは村にいられなくなるわ」
衛兵B「村長は独り身だぞ?」
アルファ「・・・間違えた。村長の恋人よ」
衛兵B「出まかせを」
衛兵C「誰であっても、ここに許可なく入れば第二級の罪だぞ!」
衛兵B「念のため村長に報告してくれ。あなたの恋人を名乗る女が許可なく侵入したとな」
衛兵C「わかった。その女を牢に入れといてくれ」
アルファ「・・・」
〇村(昼)
秘宝のある建物の表口を見つめるベータ。
アルファの姿が思い浮かぶ。
アルファのセリフ「この世界の人たちが地獄に落ちるのを見過ごすの!?」
ベータ(M)「・・・まるでオレが滅茶苦茶ひどい奴みたいだ」
アルファのセリフ「あなたの力が必要なの! あなたには世界中の生物を救う力があるの!」
ベータ(M)「最悪なことに、オレはとんでもない力をもってしまった・・・」
目を固く瞑るベータ。涙目で震えるアルファの姿が思い浮かぶ。
秘宝のある建物の中から衛兵Cが出てくる。
衛兵C「間抜けな侵入者を1名拘束中だ。今から村長に報告しにいく」
と、表口に立っている2人の衛兵に声をかける。
ベータ「!」
村の道を歩いていく衛兵C。
衛兵C「みんな、聞いてくれよ。間抜けな女が許可なく侵入して牢屋に入れられたんだ」
と、村人たちに大きな声で話しかけながら歩く。
ベータ「(溜息をついて)・・・くそっ」
立ち上がったベータ、表口に立つ衛兵を見つめる。
ベータ(M)「眠れ!」
〇秘宝のある建物の表口(昼)
眠っている2人の衛兵を秘宝のある建物の中に引きずるベータ。
ベータ(M)「外で眠ってたら目立つからな」
ベータ「・・・今回だけは助けてやるか」
〇秘宝のある建物内(昼)
一人で慎重に奥へと進むベータ。つきあたりの壁が見える。
ベータ(M)「アルファの話が本当なら、残る衛兵は7人」
緊張した表情を浮かべて進むベータ。
後方のつきあたりから話し声が聞こえてくる。
ベータ(M)「やばい!」
と、近くの一室に入る。
〇秘宝のある建物・休憩室(昼)
誰もいない部屋を見回すベータ。
ベータ、物置へ隠れる。
ベータ「(祈るように小声で)頼むから、入って来るなよ」
休憩室に入ってくる衛兵たち。
ベータ(M)「(焦った表情で)入ってくんのかよ!」
衛兵D「侵入者の女、可愛かったな」
衛兵E「村長の恋人ってのが嘘だったらどうする?」
衛兵F「口説くのか?」
笑っている衛兵たち。
物置の隙間から衛兵たちを見るベータ。
ベータ(M)「眠れ!」
〇秘宝のある建物内・牢がある部屋(昼)
手をロープで縛られたアルファ、衛兵Bに連れてこられる。
衛兵B「入れ」
牢の中に入るアルファ。
〇秘宝のある建物・休憩室(昼)
談笑している衛兵たち。
ベータ(M)「まだ時間にならないのかよ!? タイムラグが長いのは最悪の弱点だ!」
物置の近くに来る衛兵D。
ベータ「(焦った表情で)!」
衛兵D、別の場所に移動する。
ベータ(M)「・・・やっぱり能力発動までに5分かかるのは長すぎる!」
物置を開ける衛兵E。
ベータ「!?」
衛兵E「(ベータを見て驚く)なんだおまえ!?」
談笑している衛兵たち一斉に物置を見る。
両手をあげているベータ。
ベータ「(震えながら)・・・あ、そ、村長の隠し子です」
〇秘宝のある建物・牢がある部屋(昼)
アルファ、牢の外にいる衛兵Bを見つめている。
アルファ「ねえ、私はあなたの秘密を知ってるわ。ばらされたくなければ、私の言う通りにした方がいいわよ?」
衛兵B「何の秘密だ? 言ってみろ」
アルファ「あなたの浮気」
衛兵B「! 出まかせを」
アルファ「今夜7時に愛人のところに行くんでしょ?」
衛兵B「!? 貴様・・・なぜそれを」
アルファ「この牢を開けて私の言うことを聞いてくれれば、秘密にしてあげるわよ?」
衛兵B「・・・ふん、罪人の言葉など誰も信じん」
立ち上がった衛兵B、牢の扉を開ける。
衛兵B「(戸惑った表情で)なんだ?」
アルファ「秘宝のところまで護衛してほしいなー」
と、牢の中から出る。
衛兵B、地面に倒れる。
アルファ「え?」
牢のある部屋に入ってくるベータ。
ベータ「彼が牢屋を開けたのは君の脅しに屈したからじゃない、オレが念じたからだ」
アルファ「・・・ベータ」
ベータ「今回だけは協力する」
と、アルファの手を縛っているローブをほどく。
アルファ「ありがとう」
〇秘宝のある建物内(昼)
もどってきた衛兵C、眠っている2人の衛兵を強く揺さぶる。
衛兵C「何があった!? 起きろ!」
目を覚ます2人の衛兵。
〇秘宝のある建物内の階段(昼)
地下に続く階段をおりるアルファとベータ。
アルファ「衛兵は何人排除した?」
ベータ「8人」
アルファ「残り2人のうち1人は裏口に立っている衛兵ね」
ベータ「あと1人は外に行ったよ」
アルファ「じゃあ、楽勝ね」
〇秘宝のある建物・休憩室(昼)
眠っている衛兵たちを揺さぶって起こしていく衛兵C。
衛兵D「村長の隠し子だとほざく侵入者が物置の中にいたんだよ!」
衛兵E「引きずり出そうと思ったんだが、そこからの記憶がない」
衛兵C「村長は恋人なんていないってよ。どうとでも処分しろと言われたぞ」
衛兵F「じゃあ、あの二人は共犯だな!」
衛兵C「仲間を助けに行ってるはずだ。急いで牢に向かうぞ」
〇秘宝のある部屋(昼)
部屋に入るアルファとベータ。
小さな宝石が一つ置いてある。
アルファ「あれが秘宝よ」
と、宝石のもとに近づいていく。
ベータ「・・・」
階段をおりる複数人の足音が聞こえる。
アルファ・ベータ「(振り返って)!?」
衛兵Cの声「秘宝を狙ってるぞ! 第一級の罪だ!」
衛兵Bの声「妖術を使う! 見つけ次第殺せ!」
アルファ「ちょっと、どういうこと!? かなりの人数が来てるみたいだけど!」
ベータ「外に行った衛兵がもどってきて、眠らせた兵士たちを起こしたんだ・・・」
アルファ「眠らせた!? なんで息の根を止めてないの!?」
ベータ「人を殺すのは抵抗があったし」
アルファ「そういう良心は捨てろって言ったでしょ! どうすんのよ!? 念じても5分は必要よ!?」
部屋に入ってくる9人の衛兵。
衛兵B「いたぞ! 妖術を使わせる前に一斉にかかれ!」
アルファ「わ、私の話を聞かないと浮気をばらすわよ!」
衛兵B「ぶっ殺せ!」
襲いかかる衛兵たち。
アルファ「(必死な表情で)ちょっと! 私たちの正体を教えるから」
ベータ「動くな!」
動きを止める8人の衛兵。
アルファ「やめ・・・?」
衛兵C「え?」
と、他の衛兵たちが動きを止めたのを見て、立ち止まる。
ベータ「その兵士をおさえてロープで縛れ」
と、衛兵Cを指差す。
8人の衛兵、衛兵Cを捕まえようと飛びかかる。
衛兵C「!?」
衛兵D「(驚いた表情で)なんだよ、これ!?」
と、衛兵Cの体をおさえる。
衛兵C「何するんだ! 放せ!」
衛兵B「(困惑した表情で)体が勝手に!」
と、衛兵Cを動けないようにおさえている。
衛兵E「(おびえながら)妖術だ!」
と、ロープで衛兵Cを縛っていく。
アルファ「・・・どういうこと?」
ベータ「『眠れ』って念じたあとに、『目が覚めたらオレの指示には従え』って念じてたから」
アルファ「・・・そういうことね。驚かせないでよ、死ぬかと思ったじゃない」
衛兵8人、衛兵Cをロープで縛り上げる。
ベータ「よし、全員眠れ」
衛兵8人、地面に倒れて眠る。
アルファ、秘宝のもとに歩いていく。
衛兵C「やめろ! 秘宝を奪えば、村に災いが!」
アルファ「そんなことどうでもいいわ」
ベータ「・・・」
宝石を手に取るアルファ。
アルファ「ベータ、そいつらを全員殺して。私たちが秘宝を奪った情報を報告されたら、私とあなたは指名手配されることになる」
ベータ「殺す必要はないだろ? 今日の記憶を忘れさせるとかでもいいはずだ」
アルファ「・・・まあ、それでもいいわ。念じておいて」
〇村の出入口(昼)
門を出て向き合うアルファとベータ。
アルファ「ベータ、ありがとう。じゃあ、私は次の秘宝の場所に行くから」
ベータに背を向けて去っていくアルファ。
ベータ「(アルファを見て)・・・」
弱弱しく見えるアルファの歩いていく後ろ姿。
ベータ「・・・オレも秘宝を集める旅をするよ!」
アルファ、立ち止まる。
ベータ「この世界の仕組みを見過ごしたままじゃ、晴れやかな気持ちで生きていけそうにないし」
振り返ったアルファ、涙ぐんだ表情をしている。
アルファ「ベータ、ありがとう!」
ベータ、アルファのもとに歩いていく。
アルファ「あ、私、トイレに行きたくなっちゃった。ちょっと、ここで待ってて」
村の出入口の方角へ走っていくアルファ。
ベータ、空を見上げる。
曇り空から雨粒が一滴、ベータの顔に落ちる。
〇洞窟(昼)
一人で座っている仙人。
仙人「・・・」
仙人の背後に近づいていくアルファの姿。
〇村の出入口近くの道(昼)
木の下で雨宿りしているベータ。
ベータ(N)「なにか不吉な雨のような気がした」
雨傘をさして走って来るアルファ。
ベータ「アルファ、トイレ長すぎ。どれだけ気張ってたんだ?」
アルファ「(笑って)もう、女の子にそういうこと言わないの! 傘を探してたのよ」
と、ベータに雨傘を渡す。
〇崖下(昼)
仙人が仰向けで地面に倒れており、目をカッと開けて絶命している。
胸には小刀が突き刺さっている。
雷が仙人を照らす。
〇道(昼)
雨傘を差して歩いているアルファとベータ。
ベータ「次の秘宝の場所はどんなところなんだろうな?」
アルファ「教えてほしい? 行ったことあるわ」
ベータ「どんな場所なんだ?」
アルファ「人を殺さなきゃ、秘宝を奪えない場所よ」
ベータ「!?」
(続く)
【第3話 決意】
〇道(昼)
向かい合うアルファとベータ。
ベータ「・・・人を殺さないと秘宝を奪えない場所?」
アルファ「そう。次の行き先は人殺しをしないと秘宝を奪うことが困難な場所なの」
ベータ「どういうことだ?」
歩き始めるアルファ。
ベータ、アルファについていく。
アルファ「秘宝は地下にあって、エレベーターを使用して地上から地下におりる必要がある」
ベータ「エレベーター・・・」
懐中時計を取り出すアルファ。
地下の簡単な図面がホログラムで懐中時計から浮かびあがる。
ベータに図面を見せるアルファ。
アルファ「秘宝は地下20階にあるんだけど、警備室が地下15階にあって、そこにいる人たちが機械を操作して秘宝を守ってる」
20階と15階の間のフロアが居住区と表示されている。
アルファ「エレベーターには『一般用』、『警備兵用』、『特別用』の3つがあって、地下20階に行けるのは特別用だけ。特別用は権力者が来訪した時に使用するもので、エレベーターの操縦者がいるわ。今回、私たちは特別用を不正に利用する」
3つあるエレベーターのうち特別用のエレベーターだけが20階までのびている。
アルファ「でも許可なく地下20階に行くと、警備室で警報が鳴るから、機械を操作される。すると20階は閉ざされ、エレベーターごと閉じ込められてしまうわ」
20階と19階の間に開閉可能な長方形の岩の絵が表示されている。
アルファ「だから、秘宝を守る機械を操作されないように、警備室の人間を排除する必要がある。警備室に行く方法は、一人しか乗れない警備兵用のエレベーターに乗るしかないわ。でも、そのエレベーターだけは機械による顔認証で動くから、私たちの能力を使っても警備室に侵入することは不可能なの」
警備兵用のエレベーターだけが警備室へとのびている。
アルファ「だけど、特別用のエレベーターに乗って地下におりてる途中でガラス張りの警備室が10秒くらい見える。そこで、ベータの能力を使うってわけ」
特別用のエレベーターが警備室の前を通過するようにのびている。
アルファ「警備室に設置されてる機械は、ある程度の人数がいないと動かせない仕組みになってる。数人の警備兵が悪巧みして機械を操作するような事案を防止するためにね。だから、機械を動かせないようにするため、ベータには警備室にいる人間をできるだけ多く殺してもらう」
ベータ「殺さなくても、眠らせればいいだろ?」
アルファ「『眠れ』とか『気絶しろ』じゃ、誰かに起こされでもしたら、機械を操作されて、あっという間に閉じ込められて逃げ場がなくなるわ。警備室には30人以上いると思うし、10秒くらいしか念じる時間がないから、『死ね』と短く念じて、できるだけ多くの人間を殺す必要がある」
ベータ「・・・エレベーターで何回か往復して、そのたびに『眠れ』って念じればいい」
アルファ「1回しか往復できないわ。特別用のエレベーターは上の階にのぼれば、それより下の階にはおりられなくなるシステムなの」
ベータ「アルファは特別用のエレベーターを利用したことがあるのか?」
アルファ「昔の話だけど、一度だけ不正に利用したことがあるわ。特別用は一日に一度しか動かないの。私たちはエレベーターの運転手を操って許可なく利用する。その事実は必ずその日に発覚するはず。そうなると原因が解明されるまで特別用は凍結される」
ベータ「・・・じゃあ、前日に下見で利用することもできないってことか」
アルファ「そう。だから一度でも失敗すれば、その秘宝は奪えなくなる」
ベータ「警備室の人間に『動くな』って念じたらどうだ?」
アルファ「・・・それって、殺すことより残酷な結果になるかもよ? ベータが次の命令を念じない限り、その人は意識があるままずっと動けなくなるわ」
ベータ「・・・」
アルファ「動けなくなった人が警備室から別の場所に移されたら、帰りのエレベーターでは、次の命令をその人に念じられないでしょ。そうなれば一生意識があるまま動けない状態ね」
ベータ「・・・寝たきりになった人でも死にたいと思わない人だっているよ」
アルファ「病気や負傷とかでじゃないのよ? 何の異常もない健康体なのに動けなくなって、一生わけがわからない気持ちを抱えて生きるのは酷でしょ。通常の寝たきりの人とは違うわ」
ベータ「・・・」
アルファ「その人に未練があったらどうするの? 夢があったらどうなるの? 一生死ぬまで、その人を苦しめようっていうの? 殺すことより残酷よ」
ベータ「・・・でも、人を殺すなんて」
アルファ「いいかげん地球での善悪の考え方は捨てて。責任の大きさを自覚してよ! この世界の住人が天国に行くか地獄に行くかは、私たちにかかってるのよ!?」
ベータ「だけど、もし世界を滅ぼすことに失敗したら、オレが殺す人たちは・・・」
アルファ「失敗なんて許されないの! 絶対に世界を滅ぼさなきゃいけないのよ!」
ベータ「・・・」
アルファ「甘さは捨てて。『死ね』って短い言葉を念じて、警備室の人間をできる限り多く殺すのよ。時間的に全員は無理でも、8割近く殺せば機械を操作できなくなるはずだから」
ベータ「(葛藤する表情で)」
〇川岸(夜)
一人で地面に座って川を見つめているベータ。
ベータ(M)「殺すしかないのか・・・」
仙人の姿が思い浮かぶ。
仙人のセリフ「彼女の言う通り、世界を滅ぼす道を選ぶなら、地球での善悪の基準などは忘れなさい。でないと、君の心は壊れてしまうだろう」
ベータ(M)「・・・」
アルファの姿が思い浮かぶ。
アルファのセリフ「いいかげん地球での善悪の考え方は捨てて。責任の大きさを自覚してよ! この世界の住人が天国に行くか地獄に行くかは、私たちにかかってるのよ!?」
ベータ(M)「・・・世界の全ての住人を救うためなんだ・・・明日、オレは人を殺す」
歩いていてくるアルファ。
アルファ「ベータ、こっちに来て。明日の流れを説明するわ」
決意の表情を浮かべて立ち上がるベータ。
アルファのもとへ歩いていくベータの後ろ姿。
〇草原(夜)
遠くに見える3つの光の柱を指差すアルファ。ベータ、光の柱を見る。
アルファ「あの光の下にエレベーターがある。今日は遅いから、しっかりと睡眠をとって、明日の昼に決行するわよ」
懐中時計にホログラムを浮かびあがらせるアルファ。
アルファ「まず、特別用のエレベーターの運転手をベータに従うだけの意志をもたない操り人形になるように念じて。それで、地下19階へおりるように指示する。地下20階を閉ざすには20分くらい警備室の機械を操作し続ける必要があるんだけど、念のために警備兵が死ぬまで19階で5分待機する」
19階で5分待機とある。
アルファ「5分経ったら、20階におりて秘宝を奪う。特別用のエレベーターは侵入者対策として20階におりた場合、ちょうど1時間動かないシステムになってる。秘宝を奪った後は20階で1時間待ってから、エレベーターで地上に出るという流れよ」
ベータ「・・・秘宝は20階のどこにあるんだ?」
アルファ「エレベーターのすぐ目の前にあるわ。だからエレベーターからおりたら、すぐに秘宝を取って、1時間エレベーターの中で待機するの」
〇荒地(翌日・昼)
地面に設置されている特別用のエレベーターに向かって歩くアルファとベータ。
運転手がエレベーターの前で座っている。
ベータとアルファ、運転手の前で立ち止まる。
ベータ「オレとアルファを特別用のエレベーターで19階まで送れ」
運転手「(人形のように)はい、わかりました」
特別用のエレベーターに乗り込む3人。
3人だけが乗った特別用のエレベーターが地下に進み始める。
〇エレベーター内(昼)
緊張した表情のベータ。
各フロアが遠くで上に流れていくのが見える。
アルファ「次よ!」
ベータ「(目を見開いて)」
ガラス張りの警備室があるフロアが見えてくる。
アルファ「そこが警備室よ!」
警備室で働いている警備兵たちが見える。
ベータ、顔に汗をにじませながら必死で目を動かして一人一人の警備兵を見ていく。
〇警備室(昼)
仕事をしている警備兵たち。
警備兵A「!」
特別用のエレベーターの上部を視界にとらえるが、すぐに見えなくなる。
警備兵A「今、VIP用のエレベーターが動いてなかったか?」
警備兵B「まさか。急な来訪だとしたら、地上から連絡があるだろ」
〇エレベーター内(昼)
疲れた表情を浮かべているベータ。
アルファ「想定より警備兵の数が少なかったわね。全員、殺れた?」
ベータ「ああ」
アルファ「全ての生物を救うためよ。あなたは正しいことをしたの」
掲示板に19階と表示される。
エレベーターが止まり、扉が開く。フロアには壁にドアが一定間隔おきについている。
アルファ「ベータ、指示を」
と、懐中時計を見る。
ベータ「(運転手に)ここで5分待機して、次は20階にオレとアルファを送れ」
運転手「わかりました」
前方に一人で立っている幼く可愛らしい女の子。
女の子、ベータたちの姿に気づいて駆け寄ってくる。
ベータ「!」
女の子「(嬉しそうに)わー、エレベーターが開いてる!」
ベータの前に来る女の子。
女の子「お兄ちゃん、外から来たの?」
ベータ「そうだよ。一人でいたら危ないよ、お父さんとお母さんは?」
女の子「(笑顔で)パパとママは15階で私たちを守ってるの!」
と、上を指差す。
ベータ「!」
目を伏せるベータ。
ベータ「・・・警備室で守ってるんだ」
女の子「うん! パパもママも忙しいけど、お休みの日はいっぱい遊んでくれる!」
ベータ「いいお父さんとお母さんだね」
女の子「うん! パパとママがいれば幸せなの!」
ベータ「・・・そっか」
女の子「あ、もうおやつの時間だ!」
と、走り去っていく。
〇地下20階(昼)
エレベーターの扉が開いて、アルファとベータが出てくる。
アルファ、目の前にある秘宝を手に取る。
アルファ「秘宝を手に入れたわ。ベータ、指示を」
ベータ「(運転手に)1時間経過したら、オレとアルファを地上に送れ」
運転手「わかりました」
〇警備室(昼)
警報が鳴り響いている。
〇エレベーター内(昼)
懐中時計を見つめるアルファ。
アルファ「20分経過。20階が閉ざされないから問題なく死んでるようね」
〇警備室前の廊下(昼)
歩いてくる警備兵C。警備室の中から警報が聞こえる。
警備兵C「! 警報が鳴ってる?」
〇警備室(昼)
警備室のドアを開ける警備兵C。
20人近い警備兵が全員、床に倒れている。
警備兵C「おい、何があった?」
と、倒れている女性警備兵を強く揺する。
〇エレベーター内(昼)
懐中時計を見つめるアルファ。
アルファ「30分経過。警報音を聞いて休憩室にいた警備兵が警備室に入ってきてるはずだけど、人数が足りなくて機械を動かせないはず」
〇警備室(昼)
警備兵C、倒れている年配の男性警備兵を強く揺さぶっている。
警備兵C「隊長! しっかりしてください!」
揺さぶられても反応がない年配の男性警備兵。
警備兵C「くそーっ!」
〇エレベーター内(昼)
懐中時計を見つめるアルファ。
アルファ「1時間経過」
アルファとベータと運転手が乗ったエレベーターの扉が閉まる。
19階を通過するエレベーター。
アルファ「秘宝の奪取は無事成功ね」
15階付近を通過するエレベーター。警備室が見えてくる。
アルファ「!?」
警備室で年配の男性警備兵を中心にして20人近い警備兵たちが騒いで混乱している。
アルファ「死んでない・・・どういうこと!?」
ベータ「眠れって念じたから」
アルファ「は!? じゃあ、何で20階は閉ざされなかったの!?」
ベータ「誰かが警備室に入ってきても大丈夫なように、『1時間眠れ』って念じたから」
アルファ「!」
ベータ「警備兵の人数が多かったら殺すつもりだったよ。でも人数が少なかったら、そう念じようって決めてたんだ」
アルファ「まだそんな甘いことを・・・」
ベータ「(決意の表情で)決めたよ。オレ、世界を滅ぼすまで絶対に誰かを殺したりしない」
アルファ「(納得いかない表情で)・・・」
ベータ「誰にでも大切な人がいるかもしれないんだ。絶対に世界を滅ぼせるわけじゃないなら、誰かの幸せを奪いたくない」
エレベーターが地上に着く。
アルファとベータ、エレベーターからおりる。
ベータ「(運転手に)眠ったあとに目が覚めたら、意志のある自分にもどれ」
運転手「はい」
と、地面に倒れて眠る。
ベータに背を向けて歩いていくアルファ。
アルファ(M)「(冷笑を浮かべて)・・・次の場所で思い知ればいい」
(続く)
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