モブキャラの救世主(1話~3話)


【本作の特徴】

バトルシーンはありますが、殴り合ったり、剣で戦い合ったりする描写等はほとんどないシナリオであり、作画負担が少なくなるように意識して作っています

「モブキャラを救う」ということに特化したオリジナリティのあるシナリオです

毎話ごとに仕掛けがあるように、次話が気になる展開となるように意識して作りました



【簡易宣伝】

勇者と魔王の決闘に巻き込まれて死んだモブキャラのジェン。

謎の空間に現れた邪神から闇の力を与えられたジェンは生き返る。

やがて、ジェンはモブキャラを救うための戦いに巻き込まれていく。

圧倒的な強者に殺されるモブキャラを誰もが見たことあるはずだ。

主人公がモブキャラを救う! 主人公がモブキャラを助ける!

モブキャラを救う主人公を見たいなら、モブキャラを助ける主人公を見たいなら、この物語だ!



【作品の説明】

世界には『メインキャラ』と『モブキャラ』がいる。

両者の区別は簡単だ。それは、姿を見られただけで相手に名前が伝わるかどうか。

メインキャラは姿を見られたたけで自分の名前を知ってもらえるので、相手に名乗る必要がない。モブキャラは自分の名前を伝えるときに名乗る必要がある。

メインキャラは何らかの才能があり、モブキャラと比べて身体能力などが優れている場合も多い。だから勇者になれるし、勇者にならなくても他の分野で輝かしい未来が約束されている。

ある街で、世界最強の勇者と史上最悪の魔王の決闘がおこなわれる。

魔王は自身の能力を披露するために決闘を見守るモブキャラたちを殺害する。

勇者と魔王の戦いに巻き込まれたモブキャラのジェンは死んでしまい、謎の空間で目を覚ます。モブキャラにも人生があり、強者の都合で殺されたことに怒りを覚えるジェン。大切な人を守るために邪神から禁じられた悪魔の呪いをかけられたジェンは闇の力を手にする。

そして、異世界で無念の死を遂げたモブキャラの声が聞こえるという女性が現れる。ジェンは異世界のモブキャラを救うための戦いに巻き込まれていく。闇の力の代償によって、ジェンは戦わざるをえなくなり、大きな苦悩が彼を襲う。やがて、異世界でモブキャラを殺した悪者を倒すことを決心したジェンは戦いに身を投じていく。



【登場人物】

ジェン

モブキャラである20代後半の男性。平均的な顔立ちの新聞配達員。

ダメージを負って死ぬたびに敵を倒す難易度が下がる闇の力を手に入れる。

1ヵ月に1度、邪神に誰かの魂を捧げなければいけなくなる。


ルイス・レモネード

メインキャラである20代前半の美女。名家のお嬢様。

異世界で無念の死を遂げたモブキャラの声が聞こえる。

移動能力をもち、異世界にも転移可能である。


テンシー・ラルファータ

メインキャラである可愛らしい幼女。

ジェンにとって唯一の癒しの存在である。


邪神

おぞましい化け物のような姿をした神。

ジェンに禁じられた悪魔の呪いをかけて闇の力を与える。


リリー

女の子の姿をした小悪魔。

ジェンに闇の力について教える。


ロイ・マリフォード

メインキャラである20代後半の美青年。世界最強の勇者である。


ベネス・ドルザーク

メインキャラである史上最悪の魔王。勇者軍と魔王軍の戦争を引き起こした。



【用語】

呪女(じゅにょ)・・・悪魔の呪いをかけられた女

呪男(じゅなん)・・・悪魔の呪いをかけられた男



本作は脚本形式の作品です

(M)モノローグ

(N)ナレーション


Wordでの文字数

各話 5000字以内





【第1話 闇の力】

〇街(夜)


勇者と魔王が対峙している。


二人の決闘を見守る人々。


勇者「オレがおまえを倒して世界を救う!」


テロップ『世界最強の勇者 ロイ・マリフォード』


魔王「はっはっは。不可能だ」


テロップ『史上最悪の魔王 ベネス・ドルザーク』


剣を構えるロイ。


ロイ「始めるぞ、ベネス!」


ベネス「その前に、オレ様の新しい能力を見せてやろう」


ロイ「なに?」


ベネス「周りにいるモブキャラどもを見ろ」


ロイとベネス、決闘を見守る人々に目を向ける。


人々の体にムカデのような生物が巻き付いた形で出現する。


自分の体に巻き付いている魔生物に気づく人々。


男性A「うわっ!」


女性A「きゃーっ! なんなのこれ!?」


大騒ぎし始める人々。


ベネス「視界に入った者に魔生物を巻き付ける能力だ」


ロイ「何をする気だ!?」


ベネス「魔生物は爆発させることも可能」


男性A「(震えながら)あうあー・・・い、いやだー」


女性A「勇者さん、助けてー!」


ベネス「爆発の威力、モブキャラを使って見せてやろう」


ロイ「やめろー!」


ベネス、指でパチンと音を鳴らす。


人々に巻き付いた魔生物が爆発する。


真っ黒に焦げて倒れる人々。


ベネス「このように、爆発すればモブキャラなら一度で死んでしまう威力だ」


ロイ「(ベネスを睨んで)よくも!」


ベネス「では、始めようか。世界の命運を託された男、ロイ・マリフォード」


ロイ「ベネスー!」

と、斬りかかっていく。


二人の戦闘で衝撃波が起こる。


地面に倒れている虫の息の男性A。


男性A「(意識朦朧な目で)・・・」


〇男性Aの走馬灯・草原


仕事を終え、寝転んで親友と一緒に空を見上げる男性A。


男性A「輝いた毎日をおくりたい・・・」


親友「モブキャラのボクたちには分不相応な望みだよ」


男性A(N)「この世界にはメインキャラとモブキャラが存在する」


〇男性Aの走馬灯・道


親友と二人で歩いている男性A。


男性A(N)「メインキャラとモブキャラの区別は簡単だ。姿を見られただけで相手に名前が伝わるかどうか。つまり、メインキャラとして産まれた人間は自分の名前を相手に名乗る必要がない」


前方から美女が歩いてくる。


テロップ『呪女 ルイス・レモネード』


ルイスの姿を見る男性Aと親友。


親友「(ルイスに見惚れて)ジェン、見てよ。あの人、物凄く美人だ」


男性A「(ルイスを見て)ほんとだ。ルイス・レモネード・・・レモネードって、あの名家の?」


親友「ああ、お嬢様だね。メインキャラで美人な令嬢・・・人生バラ色だ」


男性A(N)「メインキャラは何らかの特別な才能があり、モブキャラと比べて身体能力などが優れている場合も多い」


ルイス、モブキャラは眼中にないという様子で、男性Aと親友の横を通り過ぎていく。


勇者たちに声援をおくる人々。


男性A(N)「だからメインキャラは勇者になれるし、勇者にならなくても他の分野で活躍できる」


勇者たち、周囲の声援に手を振る。


男性A(N)「メインキャラ同士が子供をつくると、その子供はメインキャラとなる。モブキャラの血が混ざればモブキャラしか産まれてこない」


〇男性Aの走馬灯・一軒家の前


夕刊の新聞配達をしている男性A。


親子が家の庭で遊んでいる。


幼く可愛らしい娘、両親から離れて男性Aのところへ走っていく。


幼女「新聞屋さんだー!」


男性Aのもとへ駆け寄る幼女。


テロップ『幼女 テンシー・ラルファータ』


男性A(M)「(テンシーを見て)! あ、メインキャラだ」


テンシー「(笑顔で)いつも新聞ありがとう」


男性A「・・・ど、どういたしまして」


両親「ご苦労様です」


男性A「(ぎこちなく)ありがとうございます。失礼します」


〇男性Aの走馬灯・道


親友と並んで歩いている男性A。


親友「なんか最近いいことあった?」


男性A「配達先の子供に癒されるんだよ」


〇男性Aの走馬灯・一軒家の前


新聞配達している男性Aに似顔絵を渡すテンシー。


男性A「(似顔絵を見て)これ・・・」


テンシー「(笑顔で)新聞屋のお兄さんだよ」


男性A「(嬉しそうな顔で)嬉しいよ、ありがとう!」


テンシー「(笑って)うん!」


〇男性Aの走馬灯・酒屋


お酒を飲んでいる男性A。


酒屋に駆け込んでくる親友。


親友「魔王軍が東地区を襲撃したらしい!」


男性A「!」


〇男性Aの走馬灯・街の治療所


ベッドで横になっている昏睡状態のテンシー。


男性A「(テンシーを見つめて)・・・」


医者「外傷はないが、呪いをかけられてて意識がもどらない。延命治療をおこなわなければ数日もたないだろう」


男性A「ご両親は?」


医者「殺されていたよ。この子には親族がいないから延命はできない」


男性A「・・・オレがお金を払います」


医者「延命してどうするんだい? 呪いを解かないと意識はもどらないし、呪いを解くにも大金が必要だ」


〇男性Aの走馬灯・道


募金箱をもっている男性A。


男性A「募金、お願いしまーす!」


親友「ジェン、なんで赤の他人のためにそこまでするのさ。仕事で稼いだお金も全部あの子の延命に使ってるんでしょ?」


男性A「あの子はオレのつまらない毎日に唯一癒しをもたらしてくれた。あの子には生きて幸せになってほしいんだよ」


〇男性Aの走馬灯・街


募金活動をしている男性A。


空から地上に降り立つベネス。


女性A「魔王よ! みんな逃げてー!」


ベネス「モブキャラども、そこから一歩も動くな。動いた者から殺していく」


男性A「(震えて)・・・」


ベネスの前に現れるロイ。


ロイ「オレがおまえを倒して世界を救う!」


ベネス「はっはっは。不可能だ」


体に巻き付いた魔生物が爆発して地面に倒れる男性A。


〇真っ白な空間


一人で倒れている男性A。


ジェン「あああっ!」

と、目が覚めて起き上がる。


何もない真っ白な場所を見回すジェン。


ジェン「・・・オレは死んだのか」


テンシーの笑顔が脳裏をよぎる。


ジェン(M)「もうテンシーちゃんは助からないのか・・・」


ベネスの姿を思い出す。


ベネスのセリフ「爆発の威力、モブキャラを使って見せてやろう」


ジェン「(怒りの表情で)くそっ!」

と、白い床を叩く。


ジェンの目から涙があふれる。


ジェン「モブキャラだって何か背負って必死に生きてんだよ!」


床に両腕をつけて体を震わせるジェン。


ジェン「こんな死に方があるかよっ・・・ちくしょう!」


ベッドで横たわっている意識のないテンシーの姿が思い浮かぶ。


ジェン「(悔しくて)うわああああああああああああっ!」


真っ白な床に涙が落ちていく。


泣き叫ぶジェン。


邪神「憎いか?」


ジェン「!?」


驚いて顔をあげるジェン。


黒い翼をはやした醜い姿の邪神が目の前に現れる。


ジェン「(邪神のおぞましい姿が恐ろしくて)ああっ・・・」


邪神「貴様は死んだ。これから貴様の魂は消滅して無になる」


ジェン「(震えて)・・・あ、あなたは誰ですか?」


邪神「私は神だ」


ジェン(M)「・・・絶対に悪い神だ」


邪神「生き返ることを望むか?」


ジェン「で、できるんですか?」


邪神「1つだけ方法がある」


ジェン「・・・」


邪神「闇の力を手にするのだ」


ジェン「・・・闇の力?」


邪神「そうだ。強力な魔の力」


ジェン「(邪神の姿を見つめて)・・・その力って、化け物みたいな姿になるんですか?」


邪神「自我や姿形に変化はない」


ジェン「・・・」


邪神「禁じられた悪魔の呪いをかけることによって、貴様は生き返ることができる」


ジェン(M)「それ、間違いなくヤバイ方法だろ・・・」


邪神「強力な力を手にすれば、貴様を殺した魔王も倒すことができるかもしれないぞ」


ジェン「闇の力とか、禁じられたとか、悪魔とか、呪いとか、なんでそんなヤバそうなことをわざわざ言うんですか?」


邪神「本当のことを伝えなければ力を与えられないからだ」


ジェン「なにか代償が必要なんですよね?」


邪神「力を与えてみないことにはわからない」


ジェン「死んだあと地獄に落ちるとか?」


邪神「天国や地獄など存在しない。生物は死ねば、この空間にくるか、魂が消滅して無になるかのどちらかだ」


ジェン「・・・」


邪神「こうしている間にも世界の時間は流れている。魔王が勇者を倒して街を全て破壊するかもしれないぞ?」


ジェン「! 今、勇者と魔王の決闘はどうなってるんですか?」


邪神「この空間からでは私も知ることができない」


ジェン「っ・・・」


邪神「街が破壊されれば、あの子も死ぬだろうな」


ジェン「(決意した表情で)オレに力をください!」


〇街(夜)


死にかけているロイと少し負傷しているベネス。


ベネス「爆発に耐えながらオレ様とここまで戦ったことは褒めてやろう。さて、そろそろ終わらせるか」


ロイ「くっ・・・」


倒れている人々の場所から強い光が発せられる。


ベネスとロイ、光の方を見る。


ロイ「!?」


ベネス「・・・なんだ?」


ジェンが光り輝きながら立ち上がる。


ジェンの体を纏う光が消える。


ジェン(M)「(自分の体を見て)傷は治ってるし、痛みもない。おまけに服も元通りだ」


ベネス「(ジェンに)おまえは何者だ?」


ジェン「・・・モブキャラだよ」


魔生物がジェンの体に巻き付いた形で出現する。


ベネス「なら、死ね」

と、指を鳴らす。


ジェンの体に巻き付いた魔生物が爆発する。


ジェン「(驚いて)うっ・・・」


ジェン、びくびくしながら自分の体を見る。


服は破けているがジェンの体は無傷である。


ジェン「(ほっとした表情で)」


ベネス「なんだと・・・」


ロイ「(信じられない表情で)嘘だろ」


ジェン「・・・」


〇ジェンの回想


真っ白な空間に立っているジェンと邪神。


女の子の姿の小悪魔が出現する。


リリー「あなたが手に入れた闇の力について説明するね」


ジェン「手短に頼む」


リリー「簡単に言えば、ダメージを負って死ぬごとに、敵を倒す難易度が下がっていく能力」


ジェン「?」


リリー「毎回死ぬと、敵を破滅させるためにクリアしなければいけない条件が提示されるから、それを達成すればいいってわけ」


ジェン「毎回死ぬって?」


リリー「ジェンは死んだらこの空間に来るようになってて、生き返ることができるってこと」


邪神「貴様が、完全に狂うまでな」


ジェン「!」


リリー「今回の条件は魔王をビンタすること。ビンタできれば魔王は破滅する」


ジェン「・・・あの爆発させる攻撃があるから無理だろ」


リリー「今回、ジェンの体は魔王の爆発能力を無効化できるようになってるよ」


ジェン「・・・」


(回想終了)


〇街(夜)


ジェン、ベネスを見る。


ジェン(M)「オレが魔王を破滅させる!」


(続く)




【第2話 激闘】

〇街(夜)


ベネスに近づくため歩いていくジェン。


ジェンの体に魔生物が巻き付いた状態で出現する。


ベネス、指を鳴らす。


ジェンの体が爆発する。


何度も爆発が繰り返されるが、ジェンの歩みは止まらない。


ベネス、魔生物を出現させるのをやめる。


ベネス「(ジェンを見て)・・・」


ジェン「その爆発能力じゃ、オレは殺せない」


ベネス「・・・そうか」

と、ジェンに手の平を向ける。


ジェン「!」


ベネスの手の平からパリパリと黒い電気が発生する。


ベネス「ならば、跡形もなく消し飛べ」


ロイ「(ジェンに)よけろ!」


ベネス「ブラックショック」


ベネスの手の平から巨大な黒いエネルギー波が勢いよく放出される。


ジェン「ひっ!」


黒いエネルギー波が直撃したジェン、街の外の荒地まで消し飛ぶ。


ベネス「モブキャラごときにかわせるわけがない」


〇真っ白な空間


目が覚めるジェン。


リリー「あっけなく死んじゃったね。次の条件は、魔王を街から追い払え」


ジェン「ビンタより難しくなってるだろ」


リリー「その代わり、魔王と同じ黒のエネルギー波を放出できる力を獲得してるよ」


ジェン「!」


リリー「でも、魔王の爆発能力に対する耐性はなくなってるから、気をつけてね」


〇街(夜)


ベネス、ロイの方に顔を向ける。


ベネス「次はおまえだ」


荒地から光が放たれる。


ベネス「(光の方を見て)・・・まさか」


光の中からジェンが現れる。


ベネス「奴は、いったい・・・」


ジェン、ベネスに向かって手の平を向ける。


ベネス「?」


ジェンの手の平から黒い電気がパリパリと発生する。


ベネス「(驚いた表情で)馬鹿な・・・」


ジェン「ブラックショック」


ジェンの手の平から巨大な黒のエネルギー波が勢いよく放出される。


ベネス「くっ・・・」

と、両手を使って自分に向かってくるエネルギー波を直角にそらす。


自分の手を見つめるジェン。


ジェン(M)「いける! これなら、魔王を追い払うこともできる」


ベネス、即座に小刀を取り出し、物凄い力でジェンに向かって投げる。


ロイ「よけろ!」


ジェン「(小刀を視認できず)え?」


遠くから飛んできた小刀がジェンの心臓を貫く。


ジェン「ぐわあああっ!」

と、地面に倒れて苦しむ。


ベネス「刃物はきくようだな」


動かなくなるジェン。


〇真っ白な空間


目が覚めるジェン。


ジェン「この空間に来れば痛みを感じなくなるんだな」


リリー「そうだよ。次の条件は魔王に深手を負わせろ」


ジェン「深い傷か」


リリー「時間を1時間までもどせる能力と、魔王と同じレベルの身体能力を獲得してる」


ジェン「ブラックショックはもう使えないのか?」


リリー「うん、リセットされてる」


ジェン「時間をもどすって?」


リリー「ジェンと魔王以外の時間を1時間までならもどすことができる。ただし、そのことを魔王に説明しないと使用できない能力だよ」


〇荒地(夜)


倒れているジェンに近づいてくるベネス。


ベネス「・・・どうやら死んだようだな」


小刀が刺さっているジェンの体が消える。


ベネス「!」


光を放ちながらジェンが現れる。


ベネス「何の能力だ?」


ジェン「・・・時間を1時間までならもどすことができる能力だ。ただし、オレとおまえには適用されない」


ベネス「おまえに適用されないなら、なぜ刃物が刺さったおまえは元通りになっている?」


ジェン「・・・」


ベネス(M)「なにか嫌な予感がするな。少し力を失うことなるが、別次元に永久に閉じ込めるか。そのためには至近距離まで奴に近づく必要がある・・・」


ジェン、街の方へ猛スピードで走りだす。


ベネス(M)「なんだ、あの走力は・・・オレ様と変わらない」

と、ジェンを追い始める。


ジェン「(走りながらベネスを見て)・・・」


ベネスの後方から黒のエネルギー波が迫ってくる。


ベネス「(後方から迫る黒のエネルギー波に気づいて)なに!?」


ジェン、斜め前方に一気にジャンプする。


ベネス「くっ・・・」

と、ジェンと同じように斜め前方の地面に一気にジャンプして黒のエネルギー波をかわす。


ジェン「(かわしたベネスを見て)くそっ・・・」


ベネス(M)「・・・後方からブラックショックが。さっき奴がブラックショックを放った場所の時間をもどして、再度発生させたのか」


前方から黒のエネルギー波がジェンとベネスに向かってくる。


ジェン、斜め前方に一気にジャンプして黒のエネルギー波をかわす。


ベネス「オレ様が放ったものか。不意を突かないかぎり当てることなどできんぞ!」

と、ジェンと同じようにブラックショックをかわす。


〇街(夜)


ジェン、建物を背に立ち止まってベネスに手の平を向ける。


ベネス「ブラックショックか、やってみろ」


動きを止めたままのジェン。


猛スピードでジェンに向かってくるベネス。


ベネスの真横から黒いエネルギー波が出現する。


ベネス「くっ! さっきオレ様がそらしたブラックショックか!」

と、前方の空中にジャンプしてかわす。


空中から迫るベネスに手の平を向けるジェン。


ベネス、小刀を取り出してジェンに投げつける。


ジェンの足に小刀が突き刺さる。


ジェン「(痛くて)っ・・・」


ベネス「ブラックディメンション・・・」

と、両手で黒い球体をつくりだす。


ジェン(M)「(黒い球体を見て)なんだ!? 嫌な感じがする」


ベネスの体が背後から剣で貫かれる。


ベネス「(驚いた表情で)な!?」


ベネスの背中に剣を突き刺しているロイ。


ロイ「なんでかオレの傷と痛みがなくなっててね」


ベネス「・・・マリフォードの時間も、もどしていたのかっ」


ジェン「(したり顔で笑む)」


ロイ「終わりだ、ベネス」

と、ベネスを斬る。


ベネス「くそっ・・・」

と、地面に落下していく。


その様子を遠くから見ているルイス。


ルイス「(ジェンを見つめて)見つけた、最強の仲間」


地面で倒れているベネス。


ジェン「(ほっとした表情で)やった・・・」


地面に座り込むジェン。


ジェン「(足に刺さっている小刀を抜いて)ぐっ・・・」


ロイ「大丈夫か?」

と、ジェンに駆け寄る。


地面に倒れていたベネス、カッと目を開ける。


ベネス「おぎゃああああああああああああ!」


ジェン・ロイ「!」


絶叫するベネス。


ロイ「(構えて)くそっ、まだ生きてるのか!?」


ジェン「心配いりませんよ。たぶんオレの呪いが発動したんです」


ロイ「呪いなんかで・・・あの魔王がこんなみっともなく泣きわめくのか?」


ジェン「オレが能力を使って倒した敵は、たとえ死んでいても生き返って、今までそいつが傷つけたり殺したりした者たちと同じ苦痛を体験したあとに破滅するらしいです」


泣き叫んでいるベネス。


ジェン「だから今、魔王によって痛めつけられた者たちと同じ苦痛を味わってるんですよ。泣きわめくほどの苦痛を受けた者がいれば、魔王も泣きわめくほどの苦痛を味わうことになるってことです」


ロイ「それは爽快だな」


ベネス「ぎゃあああああああああああ!」


ロイ「(ジェンに)立てるか? 無理なら背負うぜ。治療所に行こう」


ジェンを背負うロイ。


ベネス「だあああああああああああ!」


ロイ「うるせえなあ」


ジェン「(ベネスを見て)・・・」


ロイ「どうしてあんな凄まじい能力をもってる?」


ジェン(M)「一度死んで、禁じられた悪魔の呪いをかけられ、闇の力を手にして生き返ったとか言ったらやばいよな・・・」


ジェン「なぜか凄い力が急に使えるようになって」


ロイ「・・・そうか。君は一体何者だ?」


ジェン「ただのモブキャラです」


〇真っ白な空間


邪神とリリーが立っている。


リリー「うまくいったね」


邪神「ああ。これで私に魂を捧げなければいけなくなる」


(続く)





【第3話 救世主】

〇街の治療所(夜)


ジェンを背負ったロイが入ってくる。


ジェン「目配せで気づくなんてさすがです」


ロイ「(苦笑して)オレは世界最強の勇者だぞ?」


マリフォードの姿に気づく医者。


医者「マリフォードさん! ご無事で! お怪我は?」


ロイ「オレは無傷だ。この男の足を治療してやってくれ」

と、床にジェンをおろす。


医者「は、はい!」


ロイの体に傷が現れ、激痛が走る。


ロイ「ぐうああああっ!」

と、床に崩れ落ちる。


医者「マリフォードさん!?」


ロイ「(死にかけた状態で)どうなってんだ・・・」


ジェン「魔王が破滅したことでオレの能力が解除されて、元通りになったんです」


ロイ「(苦笑して)なるほど・・・」


医者「すぐに治療を!」


医者たち、ロイを担架にのせて運んでいく。


自分の足の傷が治っていることに気づくジェン。


ジェン(M)「・・・足の傷が治ってる。敵が破滅したら自分が負った傷は治るのか」

と、立ち上がってテンシーのいる病室に歩いていく。


ベッドで横になっているテンシーを見つめるジェン。


ジェン「よかった、無事で」


〇街(昼)


二日後。


一人で歩いているジェン。


ジェン(N)「魔王死亡という衝撃のニュースは瞬く間に全世界に伝わった」


子供たちが盛り上がっている。


ジェン(N)「勇者軍と魔王軍の長期にわたる戦争を引き起こして世界を恐怖に陥れた史上最悪の魔王は新聞配達員によって倒されたと・・・」


子供A「モブキャラが世界を救ったんだ!」


ジェン「・・・」


〇ジェンの回想


勇者軍本部にある部屋に座っているジェン。


勇者A「マリフォードの報告によれば、君が一人でベネスを倒したそうだな」


ジェン「!?」


勇者A「モブキャラが魔王を倒したと世界中で大騒ぎになってるよ」


ジェン「二人で倒しました!」


勇者B「そうなのかね? まあ、どちらでもいい」


勇者A「時間をもどせるそうだな」


ジェン「・・・もう全ての能力を失いました」


勇者A「失った? とぼけなさんな」


ジェン(M)「闇の力で得た能力は敵が破滅したら失う一時的なものだし」


(回想終了)


〇街の治療所にある個室(昼)


ジェン、個室に入っていく。


ベッドから起き上がるロイ。


ロイ「全ての能力を失ったんだって?」


ジェン「なんでオレが一人で魔王を倒したと報告したんですか!?」


ロイ「君なら一人でも勝っていただろ?」


ジェン「そんなのわかりませんよ」


ロイ「オレはチャンスを横取りしたようなもんだからな」


ジェン「横取りって・・・連携してくれたんでしょ?」


ロイ「あの勝利は、二人で倒したとオレの口からは言えないな」


腕を組むロイ。


ロイ「で、オレに何か頼みがあるんだろ?」


ジェン「・・・」


〇ジェンの回想


真っ白な空間でリリーと話しているジェン。


ジェン「それで代償は?」


リリー「一か月に一回は誰かの魂を神に捧げること」


ジェン「魂?」


リリー「闇の力を使って敵を破滅させれば、敵の魂は神に捧げられる」


ジェン「じゃあ、悪い奴を倒せばいいんだな・・・」


リリー「もしそれがなされなかった場合、完全に狂うまで苦痛を受けてジェンの魂が消滅することになるから、気をつけてね」


ジェン「・・・完全に狂うまでって」


リリー「耐えきれず悲鳴をあげるほどの苦痛を1日中受け続けた人間はどうなると思う?」


ベネスの絶叫する姿が思い浮かぶ。


ジェン「(戦慄する)」


リリー「ジェン、頑張って魂を捧げてね」


(回想終了)


〇街の治療所にある個室(昼)


ロイの顔を見るジェン。


ジェン「オレを勇者軍に入れてくれませんか?」


ロイ「なぜだ?」


ジェン「魔王軍の残党を倒したいんです」


ロイ「それは無理だな」


ジェン「え?」


〇とある村(昼)


村人たちが魔王軍から逃げている。


村人A「勇者軍はまだなのか!?」


村人B「とっくに魔王軍の総攻撃で本部ごと壊滅したってよ!」


魔王軍の兵隊A「もう勇者どもが派遣されることもない。この世界は魔王様のものだ!」


〇街の治療所の前(昼)


入り口で勇者2名が立っている。


治療所に入る人たちを確認している勇者たち。


その様子を見ているルイス。


〇街の治療所にある個室(昼)


二人で話しているジェンとロイ。


ジェン「たしかにオレは全ての能力を失いました。でも、また戦闘になったら強くなれるんです!」


ロイ「そういう問題じゃないんだ。まだニュースになってないが・・・」


ジェン「?」


ロイ「今朝、魔王軍は全員拘束されて一人残らず粛正された」


ジェン「・・・え」


ロイ「歴代魔王の中でも類を見ない強さを誇ったベネスが敗北して死んだことで、魔王軍は完全に戦意喪失したようだ」


ジェン「そんな・・・」


ロイ「これで世界から争いがなくなり、平和になるだろう。勇者の仕事もなくなるかもな」


ジェン(M)「それじゃあ、オレは悪い奴を見つけられなくなる・・・」


ロイ「君のことを調べさせてもらったよ。呪いを受けて昏睡状態になってるラルファータって女の子を助けたいんだろ?」


ジェン「!」


ロイ「魔王を倒した功績で莫大な報酬金が出るだろう。そのお金で巫女に依頼すれば呪いを解くことができる」


ジェン「本当ですか!?」


ロイ「ああ。それに巫女を優先的に派遣してもらえるだろ。世界を救ったんだから当然だ」


ジェン「(嬉しそうな顔で)よかった」


ロイ「ところで、オレにだけは君の秘密を教えてくれよ。また戦闘になったら強くなれるってどういうことだ? 誰にも言わないからさ」


ジェン「・・・本部の人たちには言わないでくださいね?」


ロイ「ああ、約束する」


死んでからの一部始終をロイに話しているジェン。


ジェン(N)「テンシーちゃんが回復して元気になることが嬉しかったオレは、本当のことを話してしまった」


個室の外の壁に背をあずけて盗み聞きしているルイス。


ロイ「・・・それで、化け物みたいな姿をした奴に禁じられた悪魔の呪いをかけられて、闇の力を手にしたってわけか」


ジェン「はい。その化け物は自分のことを神と言ってたんですけど、絶対に悪い神ですよ」


ロイ「よく信じたな、そんな悪い神の話」


ジェン「なんでかわからないですけど、話の内容は全部本当のことだと信じれたんです・・・」


ロイ「信じれたとしても、オレなら代償もわからず闇の力を手にしようとは思わないけどな」


ジェン「耐えきれない代償なら、自ら命を絶てばいいと思っていたので」


ロイ「そしたら、死んでも気が狂うまでは生き返る体になってしまったと」


ジェン「はい。考えが甘かったです」


ロイ「勇者軍に入りたいと言ったのは、悪者の魂を化け物に捧げるためか」


ジェン「そうです。でないと、オレは頭がおかしくなるほど苦痛を受けることになるみたいなんで」


ロイ「そりゃ、おっかねえ話だな」


ジェン「・・・」


ロイ「しかし、まいったな。これから訪れる平和な世界で、処刑されるほどの悪い奴が出てくるかどうか・・・」


ジェン「・・・ちょっとトイレに行ってきます」

と立ち上がって個室から出ていく。


〇街の治療所にある個室の外廊下


個室から外廊下に出るジェン。


壁を背に立っているルイスの姿が目に入る。


ジェン「(ルイスを見て)?」


ルイス「(ジェンに)初めまして」

と、ジェンの肩を掴む。


ジェン「え?」


ジェンとルイスの姿が外廊下から消える。


〇草原(昼)


ジェンとルイスの姿が現れる。


ジェン「(周囲を見回して)!?」


ルイス「マリフォードとの話は聞かせてもらったわ」


ジェン「(ルイスを見て)・・・何が起こったんですか?」


ルイス「アタシの能力を使って移動したの」


ジェン「何のために?」


ルイス「あなたとじっくり話すために」


ジェン「(ルイスを見て)ルイス・レモネード・・・どこかで見かけたことがあります」


ルイス「そうなの? ルイスでいいわ」


ジェン「それで、オレと何を話したいんですか?」


ルイス「アタシはあなたと同じよ。闇の力を手にしたの」


ジェン「本当ですか!?」


ルイス「ええ」


ジェンをじっと見つめるルイス。


ルイス「てっきりメインキャラじゃなきゃ、あの空間には行けないと思っていたんだけど、モブキャラでも行けるのね。もしかして両親のどちらかがメインキャラ?」


ジェン「いや、オレの家系は200年前くらいまで遡れますけど、全員がモブキャラです」


ルイス「そう。なら、関係ないのか」


ジェン「それで・・・」


ルイス「あなたはアタシが探し求めた最強の仲間よ」


ジェン「?」


ルイス「神に捧げる悪者を探してるんでしょ? アタシの能力を使えば、いくらでも悪者を見つけられるわ」


ジェン「本当に!?」


ルイス「ええ。アタシの能力は異世界に移動させることもできる」


ジェン「異世界?」


ルイス「別次元にはね、無数の異世界があるの」


〇とある平地


逃げるゴブリンたち。


ゴブリンA「逃げろ! 転生者だ!」


ゴブリンB「子供、女を避難させろ!」


一人のイケメンが空に手をあげる。


テロップ『転生者 トム・オーガ』


ゴブリンC「(トムに)やめてくれー!」


雷がゴブリンたちに落ちる。


真っ黒に焦げて倒れるゴブリンたち。


トム「(笑って)オレ、TUEEEえええええええ!」


〇草原(昼)


向き合って話しているジェンとルイス。


ルイス「この世界と同じように勇者軍や魔王軍がいる異世界もあれば、勇者も魔王も存在しない異世界だってある」


ジェン「・・・そうなんですか」


ルイス「アタシは異世界で無念の死を遂げたモブキャラたちの悲痛な声が聞こえるの」


ジェン「モブキャラの?」


ルイス「だから、あなたは異世界でモブキャラたちを殺した悪者を倒せばいい」


〇とある山(朝)


聖軍から逃げる人々。


一人の聖兵士が剣をぬく。


テロップ『聖兵士 ナーガ・ホーリーナイト』


ナーガ「作戦を開始したと王に伝えろ。全滅させるまで気を抜くなよ!」


聖兵士A「はっ!」


逃げる中年男性を剣で貫くナーガ。


中年男性「ああっ!」

と倒れて絶命する。


聖兵士B「ナーガ様、第二部隊が到着したようです!」


ナーガ「第二部隊は西へ進め! 魔人どもを一人たりとも逃がすな!」


逃げる人たちを次から次へと斬り殺していくナーガ。


〇草原(昼)


ルイス、何かに気づいた表情になる。


ルイス「モブキャラの無念の声が聞こえたわ」


ジェン「え?」


ルイス「あなたの出番ね。モブキャラを救うわよ」


(続く)


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